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テーマ:「空」

初出:2005/10/01
競作テーマ「空」。無力を嘆きはしない、涙を流しても。

早く、大きくなりたかったよ。

触れた君の体温が、離れないよう寄り添っていたけれど。
けれどもそのときしなければいけなかった努力は、それではなくて。
離れていても、その温もりがなくても平気でいられるよう、精一杯努力することだったのかもしれない。
温かさは、心にしみて。
しあわせだなあ、と思ったけれど。
しあわせだなあ、けれど。
このしあわせが永遠には続かないことくらいは、分かっていたんだ。
僕の手足は細くて、僕の体は君を支えるには小さくて。世界は、僕たちに余りにも冷たかったから。迷子の君と、迷子の僕は寄り添って、けれどもいつかその体温さえも奪われる日が来ることを、僕はきっと知っていた。
知らないふりは、出来なかったね。

大きく、なりたかったな。

せめて君を包んであげられるくらいに。
木枯らしの吹く街で眠る君の、毛布代わりになれれば、もっともっとしあわせだったな。
無邪気に笑う君を追いかけて、走った夏が過ぎて。
秋が来て、冬が近づけば、道の片隅で肌を寄せあう僕たちには辛すぎて。
それでも、破けた長袖から覗く君の細い腕を、隠してあげる位のことしか、僕には出来なかったんだ。
大きくなりたかった。
君のために。

凍えるような雪の朝、動かなくなった君の隣で、僕はかなしみってこういうことをいうんだって思い知ってた。
段々と体温をなくしていくその場所を、それでもなかなか動けなくて。
動きたく、なくて。
僕はまだまだ、小さくて細くてボロボロで。
でもね、君に言いたかったよ。
君と一緒でしあわせだった。
僕は、とてもとても、しあわせだったんだと。
いつか君は言ってたよね。死んだら星になるんだって。空には天国って言う場所があって、そこで君はしあわせにくらすんだって。
あのね、君がいなくなった世界は、寂しいけれど。
君が空でしあわせなら、僕は大丈夫だよ。

大丈夫、だよ。

だから時々空を見上げる。
君がいる空。
君はまだ僕を覚えているかな。僕が空に行くときまで、ちゃんと覚えていてくれるかな。
覚えていてくれれば、いいな。
覚えていてくれたら、しあわせ。



小さくてボロボロな子犬が街を行く。
昨日までは小さな女の子と一緒だったけれど、今日からはひとり。
けれども子犬は気にしない。
いつかまた、一緒に歩く日が来るから。だから悲しいけれど、大丈夫。
昨日二人であさったゴミ箱を、今日はひとりで覗き込む。パンの切れ端を見つけて、子犬は元気にかじりつく。次のゴミ箱へ、駆けて行く。
そしてふいに。
立ち止まって、空を見上げる。




大きくなる。
大きくなって、今度空の上で会うときには、君を寒さから守ってあげよう。
北風なんかにびくともしないぞ。毛布の代わりにだってなるくらい大きくなるんだぞ。
君のいない世界はとてもかなしいけれど。
空を見上げる。
君がいる空を。



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