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風葬

初出:2006/5/25
旅路の果て。わりと好き。

お前死んでも寺にはやらぬ
焼いて粉にして酒で飲む
<万葉集 / 詠み人知らず>



随分と遠くまで来たものだ。吐き出す息の荒さに鼓動さえもさらわれそうな暑い午後。
今すぐ大声で笑いたいと、乾いたのどを引きつらせた。
これ以上はもう一歩も歩けはしない。這っても進むのは無理だ。つまりこの場所こそが、自分にとっての最果てなのだろう。
震える指先はもう動けという意思を無視するようになったし、両耳の鼓膜はこれ以上の音を拒否している。
本当にこれが限界なんだろう、そうか。
いまようやく自分のすべてを出し切ったということだ。
随分と遠くまで来たものだ。干からびそうな体を地面に転げた暑い午後。
誰もいない世界を求めたはずなのに、どこへ行っても生き物はいるものだ。頭上を通り過ぎた鳥の影に、吐息すらこぼせないまま自嘲した。
色を排除し始めた視界はもう邪魔なだけ。
そうだ目を閉じたら世界に一人きりだろうか。
閉じることすら軋むまぶたを、無理やりに下ろした。闇にだって、生き物はわんさかいるだろうけれど。
随分と遠くまで来たものだ。もう誰の目にも触れぬと決めたのはいつのことだったのか。
さあ、追って来るがいい、追いつけるものならば。雑音だらけの世界でひっそりと笑った。懐には君の骨。
死神にはくれてしまったが、それ以外の誰にもやらぬ。
このままここで一緒に風化するのだ。
そのためにここまで持った命なのだ。

随分と遠くまで来たものだ。どこにも二人きりの楽園などなかったけれど。

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