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零れた明日

初出:2006/4/29
きっと希望の朝。
一握の憂いをこぼして、砂の城を崩そう。


飾り気のない夜明けを見ている。
部屋の窓から覗く風景はまるで切り取られた絵画のようだ。手を伸ばして触れれば硬質なガラスの温度だけが指に残る。ただぼんやりと見詰めるその先で、空が光にひび割れて。
太陽が、夜を崩した。
世界が今日も生まれ変わり、自分はいつもと変わらぬまま泥沼のような日常に首までつかる。一つ吐息を落として俯けば、閉じたまぶたに朝日がまぶしい。
夜を引きずって、まだ緩い夢を追いかけている。
最近、いつ眠ったのか分からないほど曖昧なラインで動いている。時々自分の行動が、夢なのか現実なのかはっきりしない。
ヘたりと座って見上げた大空は徐々に白く、明るく。
また、絵の具を重ねた青が、暑苦しく自己主張を始めるのだろう。そうしてそんな小さな感想さえも、夢のようだった。
緑色のカーテンを、そろそろと引く。明るさになれた目に、薄暗い室内は優しい。
ばたりと布団に倒れて、今度こそと目を閉じた。
今度こそ眠ろうと、何度も繰り返した言葉をもう一度自分に言い聞かせる。
今度こそ。
けれども目を閉じればそこに浮かぶのは、ただ優しい笑顔だけ。見ているだけでふわりと心が浮かんで、だから、ああもうどうしようもないなァと諦めにも似た気持ちで笑いながら泣いた。
夢にまで出るその笑顔のせいで、世界が全部夢のようだ。
もう観念してしまおうか。負けを認めて潔く、降参だといって両手を挙げようか。どうしたって逃れられないのならば、風化するまで屋外にさらしてしまえ、こんな気持ちなど。
そうすればきっといつかは、その笑顔がない違和感にもなれる日が来る。
そうすればきっといつかは、その笑顔を懐かしいと甘く思い出す日も来るだろう。
零れ落ちた透明な水がじわりと手のひらに落ちて、すいと染み込む。この体は砂のように悲しみを取り込むので、いつまでたってもなくならないのだ。
ああでもかまわない。今は、笑顔を忘れる努力よりも笑顔を思い出す努力をしたいのだ、例えそれがどれだけ辛くとも。
今はまだ。
大好きでしたとあきらめるよりも、大好きだからと祈らせてほしい。
今は、まだ。


一粒の希望を注いで、絶望という海を渡るんだ。



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