暁を待つ庭/短編保管庫
別ブログにて書き散らした短編まとめ。
激しく気まぐれ更新。
サクラ/クライ
初出:2008/3/11
テーマ:「花の下にて」
テーマ:「花の下にて」
春を、この世で最後の景色に春を、もう一度見たかった。
一番最後の世界に、君を。
それに手を伸ばすことは、祈る事に似ていた。
春を待ち、瞬く間に花開く薄紅の幻想に、震える手を伸ばしていつも、最後の最後でためらった。ざらざらとした幹に耳をおしあてて、君が生きていることを何度繰り返し確認したことだろう。それなのに最後まで、この臆病な手のひらだけが、確かな質感を怖がって。
確かにそこに存在すると知ってしまったら、失う恐怖も同時に襲う、ただそれだけが痛かった。
さくら。
君が花をつけるまで生きたい。
そして出来るなら花の下にて。
春が無ければ、己の人生はどれほど楽だったろうと、時折思う。
死にたくなるような酷い別れも、泣きたくなるような綺麗な出会いも、春にばかり運ばれてくる。緩やかにじわじわと心を焼いて、それと気付かぬうちに刻みこむ。
そうしてすぎていってはじめて、春の重さを知る。いつだってそうだった。そうしてこれからも、そうなんだろうと思っていた。
サクラ。
君が包む道をもう一度。
そこで倒れて果てたとて構わないから。
ふらふらの足取りで木枯らしの道を歩いた。
この風に温度が宿れば、この空の青が伸びれば、この冷たい世界が溶け始めたら。
幾重にも重ねる願いの紐を、結びなおして一歩を踏み出す。なぜだろう自分の体が、陶器の人形のようにぎこちないまま。
ただ、冷たい風に触れる頬だけが、炎のように熱を持っている。もしかしてこれが・・・命の熱さ、なのかもしれない。
桜。
もしも君へと届くなら。
君の命の一部になって・・・
心は燃えたらどうなるだろう。体のように朽ち果ててしまうだろうか。灰になるならいいのに、そうすれば君の養分になる。
荒い息を吐き出して、手を伸ばす。
触れられなかった花は、愛おしくて。
ざらついた幹に額を押し当て、ただただ、その水音に祈った。
ああ、どうか、花の下にて。
どうしようもない願いなのだとしても。
春を見たかった、この世で最後の春。
君が咲き誇る桃源郷が、優しすぎて。
一番最後の世界に、君を。
それに手を伸ばすことは、祈る事に似ていた。
春を待ち、瞬く間に花開く薄紅の幻想に、震える手を伸ばしていつも、最後の最後でためらった。ざらざらとした幹に耳をおしあてて、君が生きていることを何度繰り返し確認したことだろう。それなのに最後まで、この臆病な手のひらだけが、確かな質感を怖がって。
確かにそこに存在すると知ってしまったら、失う恐怖も同時に襲う、ただそれだけが痛かった。
さくら。
君が花をつけるまで生きたい。
そして出来るなら花の下にて。
春が無ければ、己の人生はどれほど楽だったろうと、時折思う。
死にたくなるような酷い別れも、泣きたくなるような綺麗な出会いも、春にばかり運ばれてくる。緩やかにじわじわと心を焼いて、それと気付かぬうちに刻みこむ。
そうしてすぎていってはじめて、春の重さを知る。いつだってそうだった。そうしてこれからも、そうなんだろうと思っていた。
サクラ。
君が包む道をもう一度。
そこで倒れて果てたとて構わないから。
ふらふらの足取りで木枯らしの道を歩いた。
この風に温度が宿れば、この空の青が伸びれば、この冷たい世界が溶け始めたら。
幾重にも重ねる願いの紐を、結びなおして一歩を踏み出す。なぜだろう自分の体が、陶器の人形のようにぎこちないまま。
ただ、冷たい風に触れる頬だけが、炎のように熱を持っている。もしかしてこれが・・・命の熱さ、なのかもしれない。
桜。
もしも君へと届くなら。
君の命の一部になって・・・
心は燃えたらどうなるだろう。体のように朽ち果ててしまうだろうか。灰になるならいいのに、そうすれば君の養分になる。
荒い息を吐き出して、手を伸ばす。
触れられなかった花は、愛おしくて。
ざらついた幹に額を押し当て、ただただ、その水音に祈った。
ああ、どうか、花の下にて。
どうしようもない願いなのだとしても。
春を見たかった、この世で最後の春。
君が咲き誇る桃源郷が、優しすぎて。
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