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君が幸せであるように

初出:2008/3/03
祈ることはそれだけ。



幾年 月日が流れても
君が幸せであるように


ねえ君の目に、俺はどんな風に映っていたのだろう。
絵の具を何層にも重ねたようなあの、夕暮れの赤い世界で。
あのね、とつぶやいて、その先はとうとういえなかった。そうしていえないまま、俺たちは互いに途方にくれて、二人ぼっちで。
もうすぐ消えてしまうのかい。
そんな無神経な言葉、けれども吐き出せればどれほど楽だったろう。答えが返ると言うのならば、きっと口にしていた。
でも。
君は答えなかっただろうね。俺がどんな風に言葉を紡いでも。俺がどれほど心底から、それを問うたとしても。
分かっているよ。だから、問わなかった。口に出来なかった。曖昧にはぐらかす君の微笑みで最後にしたくなかったんだ。
赤い世界でならもしかして。
このまま現実からはぐれることが出来るだろうかと、少し祈って。少し泣けた。
言葉が迷子だ。
赤い世界に混じり始めた藍色を、ため息と同時に仰ぎ見る。
思えば君とは何一つ、約束をしなかった。お互いに、叶わない事を知っていた。すり抜けていく風をつかめないのと同じように、お互いに、お互いをとどめて置けないことを知っていた。
すり抜けて遠くへ。
この夕暮れがいつまでも続かないみたいに確実に。
これが最後だとしてもきっと約束はしないし出来ない。




だったら、頼む。
せめて祈りを。



いつかを信じることしか出来ない夕暮れに。
幾千の言霊を、幾億の言の葉を。
きっと明日、君がいなくても、風に乗せて空に投げて川に浮かべて。
幾千の切望を、幾億の熱望を。
遠く遠く、どこまでだって、君に届くように願うから、祈るから。
声に出来ないけど、いつまでだって想うから、願うから。だから覚えていて、そしてまた再びの奇跡が俺たちに訪れるときが来たら。
そのときは、そのときこそ。



愛する君へ。
また会う日まで、君が幸せであるように。
愛しい君へ。
また出会えたら、君と幸せになるように。

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