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テーマ:「本当に素直じゃない」

初出:2006/1/07
なんと表現したらいいのかよくわかりません。
だけどきっと多分、ラブ。


きっと、たぶん、そうなのでしょう。
確かなものが、ほしかったのです。
遠ざけようと思ったのは怖かったから。
あなたの目は、そらすことを知らない刃物でした。まっすぐな情熱はとても痛くて、そんな感情に太刀打ちできるすべを知らなかった。だから、向き合うことを避けて逃げたのです。
まさか、あなたがそんな顔をするとは思わなかった。
あなたが。
そんな言葉をこぼすなんて、思わなかったのです。

「――ほしい・・・」

傷つくことになれた心は、他人を傷つけることには少しも慣れなくて。だから、私があなたを傷つけるというのなら、消えてしまいたいとさえ思ったのに。
あなたが大事でした。
そばにいるのが怖いくらいに。
あなたが大事です。
視線を合わせることさえ、出来ないほどに。
感情は諸刃の刃だから、あなたを傷つけることがないよう、伝える道を閉ざしました。
言葉を交わさず、視線を合わせなければ、大丈夫だと思ったのです。
今なら、わかります。
それは自分のためでした。
自分が傷つかないためでした。

「頼む・・・」

どうすればいいのですか、私は。
耳鳴りのように水音が響くこの空間に、あなたと二人。
逃げてしまえばよかった、どこまでも逃げてしまえば。それなのに完全に嫌われたくはないと、卑怯なこの心が泣いたのです。愚かな足は、逃げることをやめました。道がたたれたのは、だから自分のせいなのです。
まっすぐな、まっすぐな視線に捕らわれて。
自分の感情があなたに伝わることはなかったけれど、逆に、あなたの感情が私を押し流そうとするのです。痛いほど、切りつけるのです。祈るように、すがるように、言うのです。

「・・・・って、くれ」

柔らかな棘。
なんて、甘やかな願い。
それが怖かったのです。そういわれるのが、そう乞われるのが、きっと怖かったのです。私は、あなたにそんなことを言わせるほどの人間ではないのに。
最初から、そうでした。あなたはまっすぐでまっすぐで、ぽきりと折れてしまいそうな細い刃でした。そしてそれを手折ったのは、ほかならぬ私だったのかもしれません。きっと知らぬ間に、私はあなたのそのまっすぐで澄んだ心を、踏みつけたのです。

「・・・・って」

泣きそうに顔を歪めるその表情を、見ることがなければいいと思っていました。
感情は諸刃。
あなたを苦しめる、どんなものにもなりたくありませんでした。けれどもそう願った時点で、私はあなたを苦しめたのですね。
大切な人。
私はわがままで、私は欲張りで、私は卑怯です。
だから、その願いは、あきらめて。どうか忘れて。どうかどうか、私のことなど。

「頼む」

近く、近く。
あなたの声がこだまする。
距離はまた一歩詰められ、逃げ出したいほどに辛そうなあなたの表情から、目が離せないまま。
私は。
ただ心を空っぽにして、その言葉の意味を考えないようにと、馬鹿のようにまだあがいて。
とめどなく流れ落ちる涙が、途切れたときこそ最後のときなのだと、覚悟をひそやかに決めることしか、できませんでした。

「・・・頼むから」

きっと、多分、そうなのでしょう。
もう逃げ場がないと悟ってしまったから。
あなたが土足で踏み込んでくるよう仕向けたのは確かに私でした。追い詰めてしまった、逃げていたはずなのに。遠ざかることで、あなたを走らせてしまったのです。
不器用なあなたの指が、私の空っぽの涙をぐいとぬぐった、このときに。
私はもう、覚悟を決めるしかないのです。


「一度でもいいから。笑って、くれないか」


あなたには笑わなかった。
どんなときも笑わなかった。
上手に、笑えなかった。
どうせ笑うなら、至上の笑顔を、見せたかったのに。
それはあなたを苦しめたのですね。あなたの心を傷つけたのですね。大事な、大事なあなた。そんなに傷ついた顔で、私の笑顔など欲さないで。


「一度でいいから」


覚悟を決めましょう。
いいですよ、笑顔なんてあなたにくれてやります。
一生分。


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