暁を待つ庭/短編保管庫
別ブログにて書き散らした短編まとめ。
激しく気まぐれ更新。
星屑ロマンチカ
初出:2012/08/16
星屑の降る夜の話。
別サイトで書いたものに加筆・修正
優しい夢を祈るようにバトンで短編企画。
・優しい魔法
・最後の嘘
・神さまとワルツを
・透明水彩の世界
・ひとしずくのなみだ
・あたたかな手
・愛しの泣き虫さん
・さよならの代わりに
・弱い音がこぼれた
・儚く溶けた夢の終わり
・星屑ロマンチカ
・世界の最果てに広がる蒼
・優しい夢を祈るように
星屑の降る夜の話。
別サイトで書いたものに加筆・修正
優しい夢を祈るようにバトンで短編企画。
・優しい魔法
・最後の嘘
・神さまとワルツを
・透明水彩の世界
・ひとしずくのなみだ
・あたたかな手
・愛しの泣き虫さん
・さよならの代わりに
・弱い音がこぼれた
・儚く溶けた夢の終わり
・星屑ロマンチカ
・世界の最果てに広がる蒼
・優しい夢を祈るように
ねえ、昔話をしようか。
あれは、いつのことだったかなあ。そう、たしか七つか八つのころだったと思う。
俺は母親と手をつないで、夜の道を歩いていた。買い物の帰りだったよ。そんで、俺はその時すっごく怒っていた。
怒っていた……とは、違うかも。
悔しかったんだ。
ねえ、君ははどんなとき悔しいって思うかな?……うん、そうだね、自分の力が足りない時だよね。すごくよく、分かるよ。俺もそう思う。その時俺はまさに、自分の力が足りないことに途方もなく悔しさを感じていたんだ。
母さんがね、荷物を抱えてふらついたんだ。
それで俺は、小さいながらも男の子なんだから、母さんを守らなきゃって思った。支えようと思って手を伸ばしたのに、俺の手のひらじゃ全然足りなくて、2人して結局転んじゃってね。
服は泥だらけだし卵は割れちゃうし、おまけに家まではまだ遠いしで。それで俺は、すっかりふてくされちゃったんだ。
母 さんは俺の服の汚れを気にして謝るし、それも気に入らなかったな。俺は母さんを守ろうと思ったのに、力が足りずに一緒に転げたなんてかっこわるい。それ に、母さんの服を汚さないですんだのはせめてもの救いだと思ってたから、余計に俺の服だけ汚れたって母さんが落ち込むのが悲しかったんだ。
そんなのは、俺の勝手なのにね。
俺が勝手に守ろうとしただけで、俺が勝手に転んだだけで。それでも譲りたくない、俺には俺のプライドがあったんだよなあ。
そういうの、君にもあるだろう?弱音を吐きたくないとか、カッコ悪い姿を見せたくないとかさ。自分にとってそれはすっごい大事で譲れない一線だけど、ほかの誰かから見たらそうでもないことって、やっぱりあるよね?……うん、わかってくれてありがとう。
それで、そうそう。俺と母さんは裏道を歩いてた。たぶん、俺が泥だらけだったから、大通りじゃなくて裏道を選んでくれたんだろう。今ならそういう気遣いもわかるのに、あの時俺はそんなことちっとも分んなかったんだ。
でさ、沈黙の中ただ歩き続けてた俺の手を、不意に母さんが引いたんだ。
立ち止まって、見て、って。
ほら、上を見てごらんよ、星が流れていくよ。
あ、理解した?
そうそう、ちょうど今日みたいな夜だったよ。そんでね、さっき君がやったのとおんなじ。俺の服の袖をちょいちょいって2回引いてさ、振り返ったら星よりきらきらした目してんの。
うん?そう、きらきらしてるよ。
もう、見てるほうが幸せになっちゃう笑顔で、すごいよ!なんて空を指差して、その顔見てたらさ。もう俺、どうでもよくなっちゃったんだ。
かっこわるいとか悔しいとか、悲しいとか腹が立つとか。そういうの全部、ぜーんぶ、どうでもいいって思ったんだ。だって俺が守りたいって思った人は笑顔で、流れ星の群れを指差して喜んでいるんだから。
それだけで十分だって。
それが一番素敵だって。
俺はつられて笑って、笑って、ちょっと泣いたよ。どうして泣いたのかよくわかんなかったけど、今なら少しわかるかも。俺は、幸せだったんだなあって。
幸せで幸せで、あふれたんだなあって。
君にも、そういうことを思う時があるのかな。幸せだなーって思うこと。どんな些細な事でもいいんだ、例えば温かい昼さがりとか、涼しい風が吹いた暑い日とか。そういうとき君も少し、幸せで泣きたくなるかな?……なるなら、嬉しいな。
え?そん時の俺?
そうだなあ、星はこぼれたら誰がまた上に戻してあげるのか、って母さんに聞いたよ。……笑わないでよ、本気だったんだから。星が降る、って言葉があるからさ。空をこぼれていくんだなあって、そう思ったらもったいなくなっちゃったんだ。だって綺麗だったから。
どこかへ落ちていくんなら、あんなきれいなんだから、もう一度上に戻してあげればまた降るねって。精一杯考えてそう言ったんだよ。そしたら母さんは笑って、ぎゅーって俺を抱きしめて、いい子!って叫んだんだ。
往来で。
裏道とはいえ、夜とはいえ。
あれは恥ずかしかったあ。……え?うらやましい?そっかな?……ん、そうかも。
恥ずかしかったけどさ、嬉しかったし。そんで二人でスキップしながら家まで帰った。馬鹿みたいに幸せな気分で、割れた卵でオムライス作ったんだ。母さんの指が、とき卵の中から白いカラのかけらを拾い上げて、口笛吹きながら焼くのをずっと見てた。
幸せそうだったんだ。
そんで、俺はそれを見て幸せだったんだ。
笑顔見てると、自分も幸せになんない?俺はそんとき、いつか星になろうと思ったよ。
星に。
ただこぼれ落ちるだけでだって、母さんをこれほど幸せにできる存在に。
なろうと思ったんだよ。
昔話はこれでおしまい。
でも俺は今も流れ星を見るたびに思い出す、大切な記憶なんだ。笑わないで聞いてくれて、ありがとね。これは俺のカンだけどさ、君は、いつか俺が星になった時、もしかして見つけてくれるんじゃないかって勝手に思ってるんだ。
見つけてくれたらいいなって。
見つけてくれたら、嬉しい。
……それだけの話なんだ、けど、叶うなら忘れないでね。
忘れないで。
あれは、いつのことだったかなあ。そう、たしか七つか八つのころだったと思う。
俺は母親と手をつないで、夜の道を歩いていた。買い物の帰りだったよ。そんで、俺はその時すっごく怒っていた。
怒っていた……とは、違うかも。
悔しかったんだ。
ねえ、君ははどんなとき悔しいって思うかな?……うん、そうだね、自分の力が足りない時だよね。すごくよく、分かるよ。俺もそう思う。その時俺はまさに、自分の力が足りないことに途方もなく悔しさを感じていたんだ。
母さんがね、荷物を抱えてふらついたんだ。
それで俺は、小さいながらも男の子なんだから、母さんを守らなきゃって思った。支えようと思って手を伸ばしたのに、俺の手のひらじゃ全然足りなくて、2人して結局転んじゃってね。
服は泥だらけだし卵は割れちゃうし、おまけに家まではまだ遠いしで。それで俺は、すっかりふてくされちゃったんだ。
母 さんは俺の服の汚れを気にして謝るし、それも気に入らなかったな。俺は母さんを守ろうと思ったのに、力が足りずに一緒に転げたなんてかっこわるい。それ に、母さんの服を汚さないですんだのはせめてもの救いだと思ってたから、余計に俺の服だけ汚れたって母さんが落ち込むのが悲しかったんだ。
そんなのは、俺の勝手なのにね。
俺が勝手に守ろうとしただけで、俺が勝手に転んだだけで。それでも譲りたくない、俺には俺のプライドがあったんだよなあ。
そういうの、君にもあるだろう?弱音を吐きたくないとか、カッコ悪い姿を見せたくないとかさ。自分にとってそれはすっごい大事で譲れない一線だけど、ほかの誰かから見たらそうでもないことって、やっぱりあるよね?……うん、わかってくれてありがとう。
それで、そうそう。俺と母さんは裏道を歩いてた。たぶん、俺が泥だらけだったから、大通りじゃなくて裏道を選んでくれたんだろう。今ならそういう気遣いもわかるのに、あの時俺はそんなことちっとも分んなかったんだ。
でさ、沈黙の中ただ歩き続けてた俺の手を、不意に母さんが引いたんだ。
立ち止まって、見て、って。
ほら、上を見てごらんよ、星が流れていくよ。
あ、理解した?
そうそう、ちょうど今日みたいな夜だったよ。そんでね、さっき君がやったのとおんなじ。俺の服の袖をちょいちょいって2回引いてさ、振り返ったら星よりきらきらした目してんの。
うん?そう、きらきらしてるよ。
もう、見てるほうが幸せになっちゃう笑顔で、すごいよ!なんて空を指差して、その顔見てたらさ。もう俺、どうでもよくなっちゃったんだ。
かっこわるいとか悔しいとか、悲しいとか腹が立つとか。そういうの全部、ぜーんぶ、どうでもいいって思ったんだ。だって俺が守りたいって思った人は笑顔で、流れ星の群れを指差して喜んでいるんだから。
それだけで十分だって。
それが一番素敵だって。
俺はつられて笑って、笑って、ちょっと泣いたよ。どうして泣いたのかよくわかんなかったけど、今なら少しわかるかも。俺は、幸せだったんだなあって。
幸せで幸せで、あふれたんだなあって。
君にも、そういうことを思う時があるのかな。幸せだなーって思うこと。どんな些細な事でもいいんだ、例えば温かい昼さがりとか、涼しい風が吹いた暑い日とか。そういうとき君も少し、幸せで泣きたくなるかな?……なるなら、嬉しいな。
え?そん時の俺?
そうだなあ、星はこぼれたら誰がまた上に戻してあげるのか、って母さんに聞いたよ。……笑わないでよ、本気だったんだから。星が降る、って言葉があるからさ。空をこぼれていくんだなあって、そう思ったらもったいなくなっちゃったんだ。だって綺麗だったから。
どこかへ落ちていくんなら、あんなきれいなんだから、もう一度上に戻してあげればまた降るねって。精一杯考えてそう言ったんだよ。そしたら母さんは笑って、ぎゅーって俺を抱きしめて、いい子!って叫んだんだ。
往来で。
裏道とはいえ、夜とはいえ。
あれは恥ずかしかったあ。……え?うらやましい?そっかな?……ん、そうかも。
恥ずかしかったけどさ、嬉しかったし。そんで二人でスキップしながら家まで帰った。馬鹿みたいに幸せな気分で、割れた卵でオムライス作ったんだ。母さんの指が、とき卵の中から白いカラのかけらを拾い上げて、口笛吹きながら焼くのをずっと見てた。
幸せそうだったんだ。
そんで、俺はそれを見て幸せだったんだ。
笑顔見てると、自分も幸せになんない?俺はそんとき、いつか星になろうと思ったよ。
星に。
ただこぼれ落ちるだけでだって、母さんをこれほど幸せにできる存在に。
なろうと思ったんだよ。
昔話はこれでおしまい。
でも俺は今も流れ星を見るたびに思い出す、大切な記憶なんだ。笑わないで聞いてくれて、ありがとね。これは俺のカンだけどさ、君は、いつか俺が星になった時、もしかして見つけてくれるんじゃないかって勝手に思ってるんだ。
見つけてくれたらいいなって。
見つけてくれたら、嬉しい。
……それだけの話なんだ、けど、叶うなら忘れないでね。
忘れないで。
PR
この記事にコメントする
カレンダー
最新コメント
[09/29 夏野]
[07/05 薫]
[12/19 夏野]
[12/19 薫]
[10/08 d]