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最後の嘘

初出:2012/05/05
午前二時の街並みが好きです。静止するクジラのよう。

優しい夢を祈るようにバトンで短編企画。
・優しい魔法
・最後の嘘
・神さまとワルツを
・透明水彩の世界
・ひとしずくのなみだ
・あたたかな手
・愛しの泣き虫さん
・さよならの代わりに
・弱い音がこぼれた

・儚く溶けた夢の終わり
・星屑ロマンチカ
・世界の最果てに広がる蒼
・優しい夢を祈るように



午前二時を回る頃、世界は廃墟にくすぶる闇のようだ。


星さえも見えない空を見上げながら、大きく一つ息を吐く。たったそれだけの動作なのに、体が酷く軋んだ。
名前も知らない人間のために祈らないでくれ、と言って帰した神父の後ろ姿を思い出す。あの、とぼとぼとした歩みの中に、幾つもの死を看取ってきた重みがあるのだな、と実感する。死にだけは慣れたくないものだ。そんな重いものと向き合うのは、人生で唯一度でいい。ああ、煙草が吸いたい。
子供たちは兵士に「なぜ戦うの」と無邪気に問いかけるし、兵士たちもそれなりの理由を彼らに与えてはいるが、どう考えてもそれらはきれいごとに過ぎないよな。「大切な人を守るため」なんて、美しすぎて反吐が出る。戦場で、あの場所で、そんなことを考えていられるものか。「何のため」「誰のため」そんなことを考えている奴から死んでいくのがあの場所だ。兵士っていうのは、「生きたい」とただがむしゃらに思えなきゃならない。「死にたくない」と、何が何でも「生きて帰る」と、そう思えるやつだけが生き残るのがあの場所だ。どこかに煙草がなかったかな、どこかに。
だって考えても見ろ。あの灼熱の地獄で、周りは全部敵のようなものだ。全員が全力でぶつかるんだから、少しでも怯んだ奴が負けるのは目に見えているだろう。つまり今、俺が、こうして瀕死の負け犬なのは、怯んだ自分自身のせいで。道理で、当然で、当たり前なんだよ、ちくしょう。昨日煙草切らしたか。
けほっ、と小さく咳き込んで、冷たい夜の空気を吸い込む。ああ、ここが廃墟の闇ならば、自分は瓦礫か、それとも打ち捨てられた人形か。虚しくはないさ、元から廃屋なら、死体が一つ増えるだけ、ただそれだけだろう。棺桶の用意もいらなけりゃ、葬儀代も必要ない、ただそこに朽ち果てるだけ、花と同じだ。……花なんて綺麗なものに例えられる命でもないが。
くすんだ夜空に月が顔を出して、心なしか周囲を明るくした。
ああ、今敵襲あったらなすすべもないな、とか。どうせ死ぬなら同じ事だろうけど。
誰も口にはしない。でも誰もがわかっていた。この部隊は、この戦線は、捨て駒だ。お偉方の考えることなんかは分からないが、補充なしで死んでも守れとはそういうことだ。砦ごと捨てられて、それでも戦うのに理由がない俺達は、戦いをやめる理由もない。夜が開ければ機械のように同じ動作で、また出陣の狼煙を上げて、あるいは奇襲の合図を受けて戦って戦って戦って、そうして死んで潰えていく。最後の一人になってもそれは変わらず、そうして誰もいなくなるんだ。
虚しいこと、とは思わないが。
「……生きてるか?」
不意に声をかけられて見あげれば、そこには顔なじみの姿があった。名前は知らない。そんなもんだ、兵士なんてものは。でも確か、同郷の。
「ああ……」
喉に張り付くような、ばりばりに乾いた声を絞り出す。軋む体の痛みが、どこから来ているのかはわからない。
「お前も長くいたけど、ついにくたばるのか」
「行き着く場所は同じさ」
「だろうな」
ざり、と砂利を踏む音。隣に座る誰かの体温。息を吹き出したそいつが加えている煙草の、煙。
煙草。
俺の分はもう無いんだ、それをくれよ。言いたかったけれどもやめておいた。今こんな状況で吸い込んだら、そのまま息が止まりそうな気がして、洒落にならない。死にたくない死にたくない死にたくない、そう思い続けてここまで来たけど、そういや俺には、生きて帰りたい理由なんて、あったっけか。
「おい、遺言ならきいてやるぞ」
同郷の誰かがそんなことを言う。うるせえな名前も知らないくせに。まあでも、遺言ってのも悪くはないか。故郷の家族なんて、もう何年も会ってないし、生きているか死んでいるかも分からないが。
「お前が、帰ったら」
しぼり出す声が震える。情けねえなしっかりしろよ。


「俺の家族、に。俺は行方不明になった、って、伝えてくれよ」


なあ、死ぬって重いだろ。重くて重くて嫌になるし、抱えるのもしんどいだろ。だからさあ、こんなのに向きあうのは、だれでも自分の時一回っきりでいいんだよ。そう思わないか?
「そいつはいいな」
つぶやいて隣の煙草が揺れる。ああ、やっぱもらっておくんだったかな。でも実際それほど煙草が好きってわけじゃないし、まあいいか。行き着く場所は同じ、それは誰にでも当てはまるから、多分。
この嘘がバレて怒られるっていうんなら、そのときは地獄で会おうぜ。
お前共同責任者だからな、死ぬ時は俺の分も煙草持参で来いよ。
じゃあ、また。

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