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ついのね

初出:2009/2/05
対の音、もしくは終の音。

ゆるりと日が暮れる。
遠い都に夜が来る。

「昼」
「夜」

子供達の声が、笑いながら言葉を捜している。
静かな、藍色の空の下。

「天」
「地」

少女が笑う。

「じゃあ・・・冬」

少年が首を小さくかしげる。

「ん、夏」

2人は同じような姿かたちをしながら、それぞれ少女は白い服を、そして少年は黒い服を纏っていた。
柔らかく暖かな印象の少女に対し、少年はなんとなく直線的で冷たい感じがする。美しい対比ともいえるだろうか。
泉のほとり、既に暗く夜に包まれ始めた木陰で笑いあう二人の姿は、何かの絵画のようだった。

「寒い」
「暑い」
「・・・右」
「じゃあ、左」

つらつらと、まるで何かの儀式のように囁きあう二人の声は、空間にそっととけてゆく。
月だけが、見守っているようだ。

「月が、綺麗ね」

突然、少女が言う。

「太陽は、眩しすぎて見えないからね」

さらりと少年が返す。
少女が上空を見上げると、少年は目を閉じて顔をうつむかせた。

「昔、『月が綺麗ですね』で愛の告白をした人がいたのよ」

「今は、そういう時は『君は太陽のようだ』っていうんだよ」

「気障じゃない?」

「平凡だろ?」

2人の会話は平行線を辿るように重ならず、けれども同じように綺麗に対比する。
まるで2人の存在そのもののように。

「・・・人間」
「・・・神」
「永遠」
「刹那」

少女が、悲しげに眉を寄せる。
少年は、微笑む。
それはきれいな対比。綺麗な、綺麗な。故になぜかとても悲しく。

「・・・あなた」
「君」

少年の姿が夜に溶ける。
微笑むままのその姿に、少女が手を伸ばした。

「行かないで」

滲んでゆく夜の闇に、少年の声が零れて揺れた。

「さようなら」

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