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夢、ひとひら

初出:2007/4/29
「夜と少女のイメージ」で書いたもの。歌詞っぽい。

だからcry for the moon
今宵夢で会いましょう。


藍色に沈む空を見つめて、少女は小さく歌う。
それは夜の歌、祝福を心に。涙は遠く押し込めて彼方、ルル・ラ・ラ、声は枯れない泉。せめて、希望で満たしたい。
開け放った窓から冷たい空気が音もなく少女を包む。今なら、飛べるかもしれない、そんな幻想にまどろみながら。
けれどcry for the moon
羽根をもがれた鳥の夢。
やがて忍び込むように夜が訪れ、少女は歌を止める。
空気を吸い込んで、祈る。焦がれる。切望の限りに。


ねえ君を、そこから連れ出したいと言ったなら。
それは酷いことになるかな。


夜はつぶやく、頬を撫でるように小さく。
窓辺に頬杖をつき、少女は緩やかに微笑んだ。


少なくとも、私にとっては。
答えはノーだわ。


夜は、小さく息を吐き、目を閉じる。祈るように空へ顔を上げ、右手を胸の前に押し当てた。
その手が伸ばされることがあるとしたら、と少女は思う。
きっと自分は迷わないのに。
例えそれが何を意味するとしても。


うん、君は。
迷わないのだろうなあ。それが、怖いね。


微笑んで、夜は目を開けた。
漆黒の瞳が、月の光に照らされて淡く輝いて見える。胸の前で握り締められたその手のひらは、迷うように細かく震えていた。
けれど彼女は知っている。
夜はその手を伸ばさない。どんなに彼女が望もうとも。どんなに彼女がそれに焦がれようとも、決して、決して。

だからcry for the moon
この箱庭ごと連れ去ってほしい。





ここに来るのは。



やがて夜は、酷く痛そうにうつむき、声を淡くつむいだ。





今日で最後に、しようと思う。






ほらねcry for the moon
夢だったの、けれども奇蹟を祈ったの。



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