暁を待つ庭/短編保管庫
別ブログにて書き散らした短編まとめ。
激しく気まぐれ更新。
女神の癇癪
初出:2009/4/24
ラブ。
ラブ。
霧雨が肌を伝い、涙のように流れ落ちた。
見開かれた目からは、何も伝わってこない。ただ黙ってこちらを見て、断罪を待つ罪人のような、空虚な瞳だった。
・・・ずるい。
何度目かの呟きを飲み込む。
この男はいつでもそうなのだ。いくつかの道を示し、ただ待つだけ。幾度となく人に選ばせて、そのくせ、選ばれることを切実に祈っている。
ライトグリーンの傘越しに空を仰ぐ。ため息を吐き出したら、無性に腹が立ってきて困った。
こ の男を一発ぶん殴って、お風呂までひきずっていってお湯を被せてやるにはずいぶんと骨が折れるだろう。ああ面倒くさい。着いて来いと命じて歩き出しても ちゃんと着いてくるという保証はないし、背を向けたらその途端に自分で自己完結してどこへでも消えていくのだろう。本当に、煙のような奴だ。ああ殴りた い。
罪人はまだ待っている。許されることを待っている。
許すも許さないもありゃしない。なぜ、いちいち許可を求めるのか分からない。汚れてもいない手をなぜ汚れていると言い張るのか分からない。ああもう、本当に、何て面倒くさいんだ。
最初からとっくに君のものだ。
何度も何度もそう教えたのに、まだ分からないのか。この先一生わからないつもりか。わざとだったら、泣くぞこのやろう。
一歩近づけば、初めて緊張したように顔をこわばらせる。
やりきれないほど切なげに、見詰める瞳が自嘲で揺らぐ。何でこんなに馬鹿なのだろう。何度も考えたけれど、結局、その馬鹿を助長させているのは自分かもしれなかった。
手を伸ばした。
逃げる前に捕まえた右手の冷たさに、やっぱり殴ってやらないと気がすまないかもしれないと思った。
「行くよ」
本当にもういい加減にしてくれないか。私は君の神様じゃない、ただの人間だ、ただの人間でいたいんだ。君に示す道なんかないし、君が私に許可を求める事項なんかありやしないんだ。君の救いの女神になんかなれやしないんだ。ただ、君と歩きたいだけだ。
手と手をつないで、隣で歩きたいんだよ。
だからいきなり立ち止まらないでくれ、急に隣がいなくなったら困るじゃないか。私はただの人間だから、君の手のひらが冷たいと繋ぐ私の手だって冷たくなってしまうだろう?
ぐい、と手をそのまま引いて歩き出す。
今更傘になど入れてやらない、そのまま濡れてろ。
こんな馬鹿を、それでも何度でも選ぶんだから私もかなりの馬鹿だ。けど仕方がないじゃないか、途方にくれたように迎えを待っているこの鬱陶しい男を、可愛いと思えるくらいには惚れているらしいんだから。
全く馬鹿が移って腹が立つ。
睨みつけた私の視線に、男はようやく、安堵したように微笑んだ。
このやろう。
見開かれた目からは、何も伝わってこない。ただ黙ってこちらを見て、断罪を待つ罪人のような、空虚な瞳だった。
・・・ずるい。
何度目かの呟きを飲み込む。
この男はいつでもそうなのだ。いくつかの道を示し、ただ待つだけ。幾度となく人に選ばせて、そのくせ、選ばれることを切実に祈っている。
ライトグリーンの傘越しに空を仰ぐ。ため息を吐き出したら、無性に腹が立ってきて困った。
こ の男を一発ぶん殴って、お風呂までひきずっていってお湯を被せてやるにはずいぶんと骨が折れるだろう。ああ面倒くさい。着いて来いと命じて歩き出しても ちゃんと着いてくるという保証はないし、背を向けたらその途端に自分で自己完結してどこへでも消えていくのだろう。本当に、煙のような奴だ。ああ殴りた い。
罪人はまだ待っている。許されることを待っている。
許すも許さないもありゃしない。なぜ、いちいち許可を求めるのか分からない。汚れてもいない手をなぜ汚れていると言い張るのか分からない。ああもう、本当に、何て面倒くさいんだ。
最初からとっくに君のものだ。
何度も何度もそう教えたのに、まだ分からないのか。この先一生わからないつもりか。わざとだったら、泣くぞこのやろう。
一歩近づけば、初めて緊張したように顔をこわばらせる。
やりきれないほど切なげに、見詰める瞳が自嘲で揺らぐ。何でこんなに馬鹿なのだろう。何度も考えたけれど、結局、その馬鹿を助長させているのは自分かもしれなかった。
手を伸ばした。
逃げる前に捕まえた右手の冷たさに、やっぱり殴ってやらないと気がすまないかもしれないと思った。
「行くよ」
本当にもういい加減にしてくれないか。私は君の神様じゃない、ただの人間だ、ただの人間でいたいんだ。君に示す道なんかないし、君が私に許可を求める事項なんかありやしないんだ。君の救いの女神になんかなれやしないんだ。ただ、君と歩きたいだけだ。
手と手をつないで、隣で歩きたいんだよ。
だからいきなり立ち止まらないでくれ、急に隣がいなくなったら困るじゃないか。私はただの人間だから、君の手のひらが冷たいと繋ぐ私の手だって冷たくなってしまうだろう?
ぐい、と手をそのまま引いて歩き出す。
今更傘になど入れてやらない、そのまま濡れてろ。
こんな馬鹿を、それでも何度でも選ぶんだから私もかなりの馬鹿だ。けど仕方がないじゃないか、途方にくれたように迎えを待っているこの鬱陶しい男を、可愛いと思えるくらいには惚れているらしいんだから。
全く馬鹿が移って腹が立つ。
睨みつけた私の視線に、男はようやく、安堵したように微笑んだ。
このやろう。
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