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巡る

初出:2006/11/20
途方も無い征服の話。
思いがこんなに強いものだなんて、知らなかったんだ。


めぐるめぐる時を回り流れ、数えればきりがないほどの月日を漂った。
けれど幾度つまずき眠り目を覚まして空気を吸い込んだとしても、ただあなたが最後に触れた頬はじりりと温いばかりで、その小さな炎は消えず疼く。
目を閉じれば掻き消えるように光は消えてしまうのに。
目を閉じても消えぬその崩れるほど脆い幻影。
やめてくれもういい加減にしてくれ。だってあなたはもういないのだろう?僕はもうあなたを忘れると決めたし、あなたは笑って消えたじゃないか。
幾度か夢をまたぎ太陽の光を浴びて花を摘み落ち葉を踏めば、こんなちっぽけな心に巣食う小さな感情など、消えてなくなるものだと思っていたのに。
ただあなたが投げかけた優しい言葉ばかりが、幾重にも幾重にも波紋を呼んで広がってあふれるほど柔らかくて泣きたくなる。
どうして、こんなに時間がたったのに。もう気が遠くなるほどの時を踏みしめてきたのに。なぜ崩れない、壊れない、消えてくれない。
こんなにも脆そうな綺麗な感情など、とっくに風化したとして不思議ではないのに。
あなたの目が、最後に映したのは僕だった。ただそれだけの偶然にめまいがするほど焦がれて、切なく、苦しく、ああ、感情で死ねるのならばきっと今だ。どんな武器よりも痛みを突きつけるのはあなたでしかない。
あなたでしかないんだ。
それなのに、忘れられると思っていた。
ああ、こんなの戯言だけれど、聞いてくれるか。
時間ほど強い存在に打ち勝てる想いなんか信じていなかった。あなたの柔らかい指がこの頬に触れるまで、あなたの哀しい笑顔が僕に向けられるまで、あなたの優しい声が僕を呼ぶまで。
あなたが。
僕の人生に足を踏み入れるまで、このめぐり来る時の流れは無敵だったんだ。
そして今、あなたが飛び降りたこの道で、ただの残りがさえも時を揺るがす。
ああ、ああ。
こんな感情など知らなかったら良かったのに。
こんな、途方もない征服は。


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