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温かい水

初出:2008/5/22
きっとどこにでもある物語。

紫色の、夢を見た。


その色は、アメジストというには軽すぎる。例えればあの紫の花、桔梗の花弁のほうが近いかもしれない。
その夢は、悲しい夢だった。
紫は、温かい水をたたえて滲んでいた。綺麗な色なのに、とても綺麗な紫なのに、寂しくなった。
その滲みを、抑えることは出来ないだろうか。そう思ったから手を伸ばす。

許される、だろうか。
触れることは。

温かい水は甘いかな。滲んでしまった紫は、元に戻るかな。
ねえ、痛いものばっかりの世界で、苦しかったね、悲しかったね。空気さえ君に優しくなくて、一人で泣いたね、悔しかったね。
夜は柔らかくて、いつまでだって包まれていたいと願った。朝日は眩しすぎて、一日が始まることに涙さえした。
けれど。
大切な人に出会えた。
それは、嬉しいことだった。
向かい合って温かい手に触れた。
それは、温かいことだった。
とても、とても好きだと思った。
それは、大切な、ことだった。
幾度、このまま消えてしまいたいと願っただろう。夜を越さないまま、世界の一部にとけてしまえればと祈っただろう。
幾夜、耳が聞こえなければと、目が見えなければと、心が潰れてしまえばと。叫んだだろう、祈っただろう、痛んだだろう。
滲んだ紫色に、指先で、触れる。

それは、優しい夢だった。

苦しかった、悲しかった。無力ばかりが渦巻いて、痛みばかりが心を占めて。それでも、あきらめられなかった、手放せなかった、心と同化するほど大切な人もいた。美しいと、守りたいと、祈る景色もあった。
あきらめたなら。
大切な人の微笑みに会えなくなる。
それは、悲しいことだった。
守りたい景色は壊れてしまうかもしれない。
それは、苦しいことだった。
何にもまして、心を傷つけることはそれ。どんなことよりも、痛みを感じるのは、それだと知っていた。

君と、僕は、同じだね。

必死であがいて、もがいて、世界にしがみついて。
守りたいと泣いた。守らせて欲しいと祈った。守りたいんだと叫ぶことしか、できなくたって。それでも声を枯らして。
守れなかったものが有る。
たくさん、たくさん、この胸にある。
それでも。
ありがとう、と。泣いてくれた人がいる。
小さいけれど、温かい場所もあって。小さいけれど、ささやかだけど、守ろうとしてくれる人がいて。

紫。
君は、幸せだったかい。
僕は、君のいる世界が、愛しいよ。

紫色の夢の中で、温かい水が零れた。
君は微笑んで、柔らかく瞬きをする。
僕たちはそっくりで、僕たちは傷つけて傷つけて傷ついたけど。僕たちはにすぎていて、嫌いあって遠ざけあったけれど。

これは温かい夢の中。
だから君を抱きしめる。


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