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モノクローム

初出:2007/9/20
人形の恋って好きで何度も使っているテーマです。

たった一言、あなたに。
言いそびれた言葉があるのです。





お話をしましょう。
これはとても遠いどこかの世界の話。その世界では、人形達が意志を持ち、脆くて儚い世界を紡いでいました。
人形達は作られるもの、故に家族を持ちません。そこで彼らは、気に入ったもの同士で同じ家に住み、その集合体を仮に家族という名称で呼んでいました。
さて、これは一つの家族の話です。
愛想はないけれど利発そうな少年の人形がおりました。真っ黒の髪がつややかだったので、彼は黒と呼ばれていました。
その少年にはたった一人だけ、家族がいました。
透き通るように白い肌の、栗毛の華奢な少女です。彼女は人形ではなく、本当の人間でした。けれども故あって家族に捨てられ、黒に拾われて黒の家族になりました。黒は、彼女を大切な宝物のように慈しんで、彼女を白、と呼びました。
黒と白は、とても仲がよくて、互いを大切に想い合う、家族でした。

二人の生活は決して豊かではなく、又、人と人形との間に横たわる大きな溝にたびたび苦しめられましたが、それでも緩やかに柔らかく、愛しさで包むように時を過ごしていました。
白はみるみるうちに美しいレディとなり、黒の身長を追い越してしまいましたが、それでも二人は相変わらず仲睦まじく、ほほえましいほどに暖かい家族であり続けました。
ところが、そのうちに白には求婚者が現れてしまいます。
相手はごく一般的な、普通の優しい紳士でした。飛びぬけて素敵な人というわけでもなく、けれどもとても誠実で、白を心から大切にしてくれる男でした。
そして何よりも彼は、成長しない人形とは違い、白と同じ時を過ごすことのできる人間でありました。
白は、彼を好ましく思っておりましたが、それにもまして黒との家庭がとても大切でした。
求婚者はそんな白の思いをよく理解してくれ、黒も一緒に暮らしてもいいので、結婚しようと言ってくれました。
け れども黒は、それは違う、と思いました。黒は人形なので、頭はそれほどよくありません。考えることがとても苦手なのですが、それでも一生懸命に考えて、白 と彼が結婚するのだとしたら、自分がそれについていくのはおかしい、と結論を出しました。黒は白を何よりも大事に思っていました。白は、黒にとって天使で あり女神でした。彼女の幸せほど、黒が願うものはないのです。そして、彼女が結婚するというのならば遠からず自分が邪魔な存在になることは間違いない、と 黒は思ったのでした。
黒は、白とお別れをしなくてはならないと決めました。
全ては白の幸せのために、大切な大切な白のために。
どこか遠いところへ姿を消してしまおう、と。
黒は、そのように決意して、白に言いました。


白、白。一つだけ、君にいいたいことがあるんだ。


黒の声は澄んだアルトで、余り抑揚のつかない平坦な口調でしたが、いつまでも耳に残るような、柔らかい声でした。


僕は君が幸せなのが、一番幸せなんだよ。


そうして黒はにっこりと笑いました。何もかも決意したあとのようなすがすがしい表情で。白と黒は、いままでずっと差さえあって大切にしあって生きてきた家族ですから、その家族のためにならば、黒はどんなことでもしてあげたかったのです。
そうしてその日を最後に、黒は白の前から姿を消しました。



白が、どれほどそのことを嘆き悲しんだのか。
黒はそのことをきっと知らないでしょう。黒が白を大事に思うように、白だって黒のことを大切な家族だと思っていたのです。だから、幸せになるのならば一緒に幸せになりたかったのです。
結 婚式にも黒は訪れず、黒のために用意した部屋は、空っぽのまま何年か過ごした後に物置になっていきました。それでも白はずっと、黒が帰ってくるのを待ち続 けました。子供が生まれて母親になっても、黒がきっと帰ってくると信じ続けました。優しくて誠実な夫は、子供が生まれて数年後に他界してしまい、白にとっ てはまた苦しい生活が待っていましたが、それでも白は懸命に、同じ家で黒を待ちながら生き続けました。月日は、何年も何年も容赦なくすぎて、白を美しいレ ディからしわしわのおばあさんにまでしてしまいましたけれど、それでも白は待ち続けました。
大きく育った息子が、大きな家を買ってそちらに住もうといっても、白はかたくなに同じ場所で、黒をただただ待っていました。
白にとって黒は、大切な大切な家族で、ただ一人かけがえのない存在でした。恋人でも夫でもない、けれどもそれ以上に大切な存在でした。
けれども、待ち続ける日々もやがて終わりがきてしまいます。
白はある朝、花壇の手入れをしているうちに倒れてしまいました。
ああ、これでおしまいなのだな、と白は思いました。それほどまでに確実に、白は自分が死ぬのだということを理解しました。けれども白はまだ、ただいまという黒の言葉を聴いていません。


黒、黒。私、あなたに言いたいことがあるの。


白はぼんやりとつぶやきました。震えてなかなか動かない手のひらを空に伸ばしたら、誰かがその手を掴んだような気がしました。
黒だ、と白は思いました。目はもうとっくに、光と闇しか分からなくなっていました。


私にとっても、あなたの幸せが私の幸せだったのよ。


思えばもっと早くに、それをつたえていればよかったのです。人形だから、時間の流れが違うから、人間と人形は共存できない、なんてふざけたことを言う人たちもたくさんいるけれど、でもそんなことは関係ないと最初に教えてくれたのは、黒のほうでした。
白は無意識にそんな、黒の優しさに甘えていたのです。
言わなくてもきっと黒なら分かると、思っていたのです。


言いそびれた言葉が、あったよ、白。


白の手を握り締めた影が、柔らかいアルトの声で囁きました。




僕は、君が、だいすきだ。




物語は、これでおしまい。大切に大切に思うことは、時に酷く傷ついて、大きな後悔を残すことがあるのです。
けれどもその気持ち、その大切だと思う気持ちが、無駄になることなど、決してありません。どれほど泣いて、泣いて、悔やんで、絶望したとしても。
それを乗り越えれば、世界は再び輝きだすでしょう。
また、新たな色を加えて。


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