暁を待つ庭/短編保管庫
別ブログにて書き散らした短編まとめ。
激しく気まぐれ更新。
約束
初出:2008/6/29
戦場とか多すぎるよね。
すみません。
戦場とか多すぎるよね。
すみません。
全て命あるものたちへ
幸いあれ
幸いあれ
時折、大地に伏して泣きたくなることがあるよ、と言ったのは君だった。
奪って奪って生きてきたし、これからだって奪っていく。だというのに、この大地に根を張る生き物たちは、どれほど踏みつけて、引っこ抜いて、焼き払っても、その焦土からまた芽吹く。
小さく笑って、隣に並んで、触れそうで触れない位置に居たそのとき。
君は、泣いていたのだろう。
声にせず、表情にせずに。
そんなことをふと、思い出した。
「そこに・・・いるか」
かすむ世界に手を伸ばせば、暖かいものに触れる。君の手だと分かるまでに、時間はかからなかった。
眩暈がする。言葉を多く話せない。それでも、思考回路は驚くほど冷静で鮮明。まるで己が己で無いような感覚に、笑みがこぼれる。
「肩を・・・」
同じように汚れた格好の君が、すぐに肩を貸してくれる。引きずるように歩いていたのが、少しだけ楽になった。
ぐるり、首を回して周囲を見渡す。
一面の焦土・・・芽吹いたばかりの新緑が無残になぎ倒され、焼き払われ、其の上に敵兵が倒れている。黒ずんだ大地は本来、この時期水を吸うもの。このように血を吸うとは、なんとも申し訳ないことだ。
「帰りましょう」
軽い口調で、君が言う。
「此処にいたって、なんにもない。さっさと帰って、傷の手当して・・・次に備えましょうよ」
「ああ・・・そうだな」
篭城を堅持する敵の次の一手は、次こそ総攻撃か降伏か。どちらにしろこの大地が、もう一度血を吸うことになろう。その際は己が、焼いてやらねばならない。浄化の炎など、信じはしないが。
「もう一度、」
よたよたと歩き出しながら、心はこの青空のように透明に澄んでいるようだった。
戻ればたくさんの仲間たちが待っている。次はもう少し楽に戦えるだろう。
「芽吹くだろうか」
新しい命は。
幾度と無く踏みつけられたこの大地にも。
血を吸って潤んだこの大地にも。
「・・・芽吹くよ。焼き畑みたいなものだ」
痛そうに眉をゆがませて、それでも君は頷く。
そうか、そういうならば、大丈夫なのだろう。
「灰は栄養になるというな、確かに」
腕を伝って流れ落ちる、己の血は温い水となるのならば。
この血も、この身も、いずれは大地の養分に、命の糧に。そうしてつながっていくのが、世界の掟というものか。この赤い大地から、全てを浄化するような白い花も咲く日がくるというのならば、それこそが、許しと言われるものなのかもしれない。
「・・・見たいな」
今は荒れ果てて。
今は血に濡れて。
今は焼き払われた、嘆きの大地でも。
時がそれを癒す、それは当たり前の奇跡というものだ。
君は何も言わない。ここで一緒に見ようとでも言えるようならば楽だろうに。君は、自分たちに先が約束できないことを知っている。
「見ような」
けれど当たり前のように。
先の約束をするのはいつも自分からだ。
そ れで構わない、それが丁度いい。いつだってどんな焦土からでも芽吹く命があるのだから、今ある命はもっと、生を謳歌してよいはずだ。君にその権利がないだ なんて思わない。自分に其の権利があるというのなら等しく君にもある。人は、生きるうえで生きるというその一点において、絶対的に平等だ。
「・・・そう、だねえ・・・」
言葉に詰まって、君は緩やかに息をつく。
其の唇は、先を信じぬといいながら、先の約束を否定はしない。
今は、それでいいのだと思う。
この先はずっと長いのだから。
命ある全ての者へ。
幸いあれ。
幸いあれ。
幸いあれ
幸いあれ
時折、大地に伏して泣きたくなることがあるよ、と言ったのは君だった。
奪って奪って生きてきたし、これからだって奪っていく。だというのに、この大地に根を張る生き物たちは、どれほど踏みつけて、引っこ抜いて、焼き払っても、その焦土からまた芽吹く。
小さく笑って、隣に並んで、触れそうで触れない位置に居たそのとき。
君は、泣いていたのだろう。
声にせず、表情にせずに。
そんなことをふと、思い出した。
「そこに・・・いるか」
かすむ世界に手を伸ばせば、暖かいものに触れる。君の手だと分かるまでに、時間はかからなかった。
眩暈がする。言葉を多く話せない。それでも、思考回路は驚くほど冷静で鮮明。まるで己が己で無いような感覚に、笑みがこぼれる。
「肩を・・・」
同じように汚れた格好の君が、すぐに肩を貸してくれる。引きずるように歩いていたのが、少しだけ楽になった。
ぐるり、首を回して周囲を見渡す。
一面の焦土・・・芽吹いたばかりの新緑が無残になぎ倒され、焼き払われ、其の上に敵兵が倒れている。黒ずんだ大地は本来、この時期水を吸うもの。このように血を吸うとは、なんとも申し訳ないことだ。
「帰りましょう」
軽い口調で、君が言う。
「此処にいたって、なんにもない。さっさと帰って、傷の手当して・・・次に備えましょうよ」
「ああ・・・そうだな」
篭城を堅持する敵の次の一手は、次こそ総攻撃か降伏か。どちらにしろこの大地が、もう一度血を吸うことになろう。その際は己が、焼いてやらねばならない。浄化の炎など、信じはしないが。
「もう一度、」
よたよたと歩き出しながら、心はこの青空のように透明に澄んでいるようだった。
戻ればたくさんの仲間たちが待っている。次はもう少し楽に戦えるだろう。
「芽吹くだろうか」
新しい命は。
幾度と無く踏みつけられたこの大地にも。
血を吸って潤んだこの大地にも。
「・・・芽吹くよ。焼き畑みたいなものだ」
痛そうに眉をゆがませて、それでも君は頷く。
そうか、そういうならば、大丈夫なのだろう。
「灰は栄養になるというな、確かに」
腕を伝って流れ落ちる、己の血は温い水となるのならば。
この血も、この身も、いずれは大地の養分に、命の糧に。そうしてつながっていくのが、世界の掟というものか。この赤い大地から、全てを浄化するような白い花も咲く日がくるというのならば、それこそが、許しと言われるものなのかもしれない。
「・・・見たいな」
今は荒れ果てて。
今は血に濡れて。
今は焼き払われた、嘆きの大地でも。
時がそれを癒す、それは当たり前の奇跡というものだ。
君は何も言わない。ここで一緒に見ようとでも言えるようならば楽だろうに。君は、自分たちに先が約束できないことを知っている。
「見ような」
けれど当たり前のように。
先の約束をするのはいつも自分からだ。
そ れで構わない、それが丁度いい。いつだってどんな焦土からでも芽吹く命があるのだから、今ある命はもっと、生を謳歌してよいはずだ。君にその権利がないだ なんて思わない。自分に其の権利があるというのなら等しく君にもある。人は、生きるうえで生きるというその一点において、絶対的に平等だ。
「・・・そう、だねえ・・・」
言葉に詰まって、君は緩やかに息をつく。
其の唇は、先を信じぬといいながら、先の約束を否定はしない。
今は、それでいいのだと思う。
この先はずっと長いのだから。
命ある全ての者へ。
幸いあれ。
幸いあれ。
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