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預言者の死

初出:2006/2/16
寓話的なもの。
庵の預言者が死んだ。
それは前代未聞の怪事件として、後まで語り継がれよう。
庵の預言者が死んだ。
不死であると言われた男だ。
不老の秘術を用いるとされた男だ。
神に愛されたとも、逆に憎まれたとも噂される、特別な人間だった。
庵の預言者は、町の中心にある小高い丘に、神を祀る社の守人として居を許されていた。ぽつねんとある庵に、一人きりで住んで、時折予言をもたらした。
男には家族はなく、死んだとも、神にとられたのだともいわれていた。中には、特別な力を得るためにいけにえとして差し出したというものさえいた。
けれども男は黙して語らず、真相は誰も知りはしない。
男は予言を告げる以外に口を利くことを許されなかった。それはその声が他のものの耳に入ることを、神が嫉妬するからだと言われた。
本当はどうだったのか、今では分からない。
憎まれて世間から隔離されたのだとする説も、確かに根強かった。

庵の預言者は、死んだ。

とにかく歳をとらないので有名だった。
じいさんのじいさんのそのまたじいさんの時代から、黒々とした髪は伸ばし放題、童顔はどこかあどけなさを残したままに変わらず、背もちっとも高くならなかったという。
百歳とも、それ以上とも言われた。正確な年齢は誰も知らない。
預言者は、いつも一人で。
誰にも知られず、ひそかに死んだ。
死体は何週間たっても少しも崩れず、どこも腐りはしなかったという。去年の夏のことだ。例年にない猛暑だった。
そして今、預言者のいない街には大寒波が押し寄せ、人々が凍えて街をいく。この寒々しい街で、庵の預言者は死してなお神に祀られ続けている。
見たまえ、この氷の張った池を。
ここは神の池とされ、水は聖水、指先に触れれば切れて血が流れよう。多くのものが、水に触れたとて罰を受けた聖なる水だ。
その中にいて、見よ、預言者は無傷のまま、神の水面に抱かれて眠る。
今となっては、たくさんあった噂のうちどれが正しいのかなど誰にも分からない。
けれども、誰も疑うことなく信じることは、この男が確実に神に愛されていたということだ。
愛されすぎて、世にいられなくなったのだ。
神の嫉妬のために、他と触れ合うことが出来なかったのだ。
その証拠に、見よ。
人を拒み、人を切りつける神の水の中で、男はあんなにも安らかに眠る。
まるで前からこうしていたかのように。
そして当たり前のこととして、人々はそのまま男を見捨てるのだ。
哀れな男は、神に愛された。
人には、結局愛されなかった。


それは、人の死ではなく。
それは、預言者の死。


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