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MAX -Dear my only light-

初出:2007/3/14
下のと対。


「よぉマックス。調子はどうだい? 今日も暑いぜぇ」


格納庫にひときわ大きな声が響いて、『スモーク』はいつものように軽い足取りで近づいてきた。このところすっかり豆だらけの手のひらを翼に当てて、手早く点検をこなしていく。
「ちょっとだけ車輪調節しような?こないだ着地不安定だったろ。そのうち敵機でも拾って、もっとマシな足つけてやるから、それまでちょっくら我慢してくれよ」
大きな明るい声で、本当にマックスを親友みたいに話しかける『スモーク』は、そりゃ、傍から見たら変人だっただろう。胸ポケットから取り出したジッポで煙草に火をつけ、煙を吐き出しながら工具をてきぱきと扱っている間中、マックスに向かって話すことをやめないのだから。
『スモーク』は、操縦席にいるとき以外は煙草をすっている。だからスモーク、喫煙者という単純明快なニックネームで呼ばれていた。この御時勢、戦線ではなかな か煙草は手に入らないのに、『スモーク』はいつでも、どこからか拾ってきたり、運よく人からもらったりして、口元に煙草を絶やさない。
『スモー ク』がそうやって煙草をぷかぷかやりながら戦闘機を整備する姿は、もはやこの飛行戦隊の中では当たり前の日常になっていて、いまさら揶揄する人間もいな かった。中にはそばによってきて、今度マックスを俺に乗らせてくれよ、なんて言いだす輩もいるが、それは『スモーク』がすべて一蹴した。


お前にゃ乗りこなせねえよ、俺の最愛のマックスは。


文字通りの意味で、それはその通りなのだ。
『スモーク』はもともと、戦闘機整備団の一員だった。機体を学ぶ上で必要だったから操縦を覚えただけだと言う。
けれど、『スモーク』の従軍していた戦隊が敵地で取り残され、ほぼ壊滅の状態になったとき、彼の一番の親友だったパイロットが、『スモーク』にマックスを託したのだ。
マックスは、彼の、亡くなった娘の服を基本素材に巻きつけて作った、本物の娘みたいな戦闘機だから、と。
それで『スモーク』は大破していたマックスを、その場でありあわせの材料で補強した。その辺に落ちていた敵機から部品を剥ぎ取って、矢のように注ぐ敵の空襲を間一髪で避けながら、何とか飛べる状態にまでしたときに、運よく敵機が一時退却をして。
『スモーク』は腕のいい整備士だったし、同じくらい腕のいい操縦士だった。定員一人のマックスに、無理無理親友の亡骸を詰め込んで、『スモーク』は飛んだ。離陸の難しいいびつな地面から難なく空へ舞い上がり、敵機に発見されることなく、燃料で届くぎりぎりの場所にある味方基地まで、ふらふらとよたつきながら、 それでも飛んだ。
奇跡の生還を果たした整備士は、それ以後マックスに乗るためだけにパイロットになった。同時に、自分以外の誰も乗れないように大きく改造して、扱いを難しくしたのだ。
そして、マックスと『スモーク』は、それ以来幾度も幾度も出撃を共にして・・・
二年と、少し。
大破しても大破しても戻ってくる『スモーク』とマックスを、いつしか人はこう呼んだ。



Lucky Star ― と。



「マックス、悪ぃ、ちと無理するぜ」
『スモーク』が小さく告げる。同時に出力は一気に最大まで上げられた。後方に追いすがる敵機の機体は最新型。旧式な上にさっきまでの戦闘で銃弾を使い果たしたマックスでは勝ち目がない。
選択肢はただ一つ、離脱を図るのみ。
運悪く味方軍機からは距離がある。
敵機が銃撃を開始した。威力は立証済み、当たればただではすまない。おまけにマックスは戦闘性に優れている分、スピードがあまり出なくて軽い。回避するには旋回、スライドの繰り返しで、どんどん味方からはぐれていく。
「もう、ちょい・・・ッ頼む!」
『スモーク』がマックスの操舵レバーに力をこめる。その瞬間、
「!?」
突如、機体がコントロールを失った。


被弾したか!?


レバーを上げても機体は上昇しない。白い砂浜に頭から一直線に突っ込んでいく。被弾することは何度もあったが、ここまで明らかな墜落の危機はおそらくはじめてだ。『スモーク』は一瞬体を硬直させた。
次の瞬間。
「!」
ぐん、と体が後ろに引っ張られた。
固定ベルトの巻取り口が壊れたらしい、きついほど『スモーク』は体ごと座席に固定された。同時に、レバーを握り締めていた腕も無理やり引っ張られ、機体が一瞬ふわりと浮く。
「・・・マックス!」
叫びに答えるように、マックスは水平をとりもどした。切っ先がぐんと浮かび上がると同時に、柔らかい砂の地面へ腹から滑り込む。
ギ、と軋んだ音がして固定車輪が折れ曲がるのが分かった。だがそんなものは問題じゃない。
『スモーク』は衝撃を覚悟した。この熱い砂にスライディングでは、悪くすれば高温により爆発炎上だ。けれどもマックスは二回ほど緩やかに回転しながら減速し、ついに、砂浜の外れに突き出した緑の茂みの中へと突っ込んで、静かに止まった。

「・・・ラッキィ・・・」

すでにつぶやきなれた言葉で、現状を理解する。
機体を覆い隠すように伸びた木々の隙間から、敵機の大群が通り過ぎていくのが分かった。
「サンキュー、マックス。お前はホントに、女神様だぜ・・・」
長い、安堵のため息。
『スモーク』は、固定ベルトを外した。さっき後方に引っ張られたのが嘘のように、抵抗なくそれは外れる。
「やられたのは右翼か。穴開いてるだけって、タフだねお前」
コックピットから這い出して、足元の工具箱をつかみ出す。ざっと点検してから、『スモーク』は何度目かの安堵の息をついた。
これなら、飛べる。
「マックス、もう一回腹から着陸になっちまうけど、勘弁してくれよな。どうせオンボロ足だったしよ、これを期に新しいのねだってやるからな。翼は大丈夫、これっくらいなら応急処置で飛べる。エンジンは・・・言う事なし、だし」
ジュッと音を立てて、ジッポで加え煙草に火をつける。
真剣なまなざしで補修を始める『スモーク』を隠すように、マックスが少しだけがくんと機体を砂に沈めた。



大丈夫、守るよ。
だってあなたは私の愛するマスターだもの。


絶対に、守る。


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